欠損金の繰越しと繰戻し還付について
平成21年度税制改正で、一部を除き不適用となっていた欠損金の繰戻しによる還付が、平成21年2月1日以後終了事業年度の中小企業者等から適用できることとなりました。また、同じく平成21年度税制改正で平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間に終了する各事業年度の所得の金額のうち800万円以下の金額に対する法人税の軽減税率が22%から18%に引き下げられました。
これらの税制改正により前期が黒字申告で税金を納め、当期が赤字申告の場合、当期の欠損金を繰越すかそれとも繰戻し還付請求するかいくつかの点から検討する必要があります。
まず一つは、還付請求書を提出した場合には「その請求の基礎となった欠損金額その他必要事項について調査する」ことが税法で規定されていますので、調査に時間を要することです。
二つ目は欠損金を繰越す方が有利だったとしても、その時の資金繰りによっては還付請求をした方が良い場合があります。当期が赤字申告の場合、特に資金が減っていることが予想されますのでその点を考慮しなければなりません。
そして三つ目は、所得金額によって税額の有利不利をシミュレーションすることです。
ここで例を出して考えてみます。
ある中小法人で前期所得金額は1800万円、法人税額は800万円部分が176万円(税率22%)、800万円を超える部分が300万円(税率30%)とします。そして当期所得金額は△800万円だったとします。また、翌期の黒字金額はA:1800万円の場合とB:800万円の場合の二通りで考えてみます。
欠損金の繰戻し還付金額の計算式は
(還付金額)=(黒字年度の法人税額)×(当期の欠損金額)÷(黒字年度の所得金額) です。
比較表はこちら>>
Aの場合は、欠損金を繰越す方が還付金を請求する場合より有利になります。これは還付請求の場合は(黒字年度の法人税額 476万円)×(当期所得金額△800万円)÷(黒字年度の所得金額1800万円)≒212万円の還付金額になるのに対し、欠損を繰越す場合は翌期の黒字額1800万円のうち800万円が欠損金で相殺され課税所得金額1000万円のうちの800万円が18%、200万円が30%課税され法人税額が204万円となり、1800万円の黒字金額が欠損金で相殺される方が節税の幅が大きくなるからです。つまり還付請求する場合は税率が22%部分と30%部分に按分されて還付金額が計算されるのに対し、欠損金を繰越す場合は欠損金800万円を黒字金額から相殺する部分の税率が30%部分となるため節税の幅が大きくなります。
一方、Bの場合、還付金を請求する方が欠損金を繰越す場合より有利になります。これは還付請求の場合は当期所得△800万円が22%部分と30%部分に按分され還付になりますが、欠損を繰越す場合は欠損金800万円を税率18%部分の黒字金額800万円と相殺するため節税幅が還付金を請求する場合よりも小さくなるためです。
以上のことから前期の課税所得金額、法人税額と当期の課税所得金額、法人税額が確定した場合、翌期の損益予想をして30%部分の節税幅がどれくらいかを考慮して有利不利を判断する必要があります。
還付請求した場合の還付加算金については、その計算期間は還付請求がされた日または欠損事業年度の確定申告書の提出期限のいずれか遅い日の翌日以後3か月を経過した日から、その還付の支払い決定をする日またはその還付金について充当をする日までとなっています。
なお、欠損金の繰戻し還付の適用があるのは法人税だけで、事業税等の地方税ではこのような制度はなく、欠損金の繰越し額が法人税と事業税等でズレることがあります。