8月になり、厳しい暑さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?
さて、今月の大ちゃんニュースのテーマは「タワーマンションの固定資産税の課税の見直し(以下、タワマン課税)」についてです。
最近新聞でもよく話題になっており、関心を持たれている方も多いかもしれません。
そこで、タワマン課税ってどういう内容?なぜ規制がかかろうとしているの?という事を簡単にお話しさせていただきます。
◆タワーマンション(注)を使った相続税対策
タワーマンションが好んで購入されたのは、富裕層の方々の相続税対策として使い勝手が良かったからです。具体的な相続税対策について触れるとともに、タワマン課税の問題点についてお話します。
(注) 区分所有家屋のうち、高さが60メートルを超える建築物(建築基準法第20条第1項第1号に規定する建築物)であって、複数の階に人の居住の用に供する専有部分を有するものをいいます。
これまでのタワマン課税の問題点
タワーマンションを取り巻く諸問題は、主に次の2点が挙げられます。
1.固定資産税や不動産取得税が、1階と最上階で同じ
タワーマンションの購入価格は、同じ間取りの場合でも階数が上がるほど価格も上がるのが通例で、その売りの一つは眺望です。階数が増える毎に部屋からの見晴らしが良くなります。また、美しい景色を望める方角は同じ階数でも高くなり、イマイチな景色の方角は安くなります。
そのため、階数や方角で購入価格が異なるのは仕方のないことですよね。
ところが、固定資産税や不動産取得税はそうではないのです。
同じ間取り、同じ床面積ならば、1階でも50階でも、北向きでも南向きでも、素晴らしい景色が見えようが隣のマンションの壁が見えようが、掛かる税金は全くの同額、1円も違いません。
固定資産税や不動産取得税は、固定資産税評価額に税率を乗じて計算しますが、タワーマンションの固定資産税評価額は、タワーマンション全体の建築コストを床面積で各部屋に割り振ったもので、階数や方角は一切加味していません。
そのため、固定資産税や不動産取得税は購入価格と全く比例しない税額となってしまうわけです。
2.富裕層の相続税対策に利用されやすい
先程登場した固定資産税評価額は購入価格の3割〜6割程度になります。
具体的には次のようなイメージ(固定資産税評価額は推定)です。
この固定資産税評価額は、固定資産税等の税金の計算に使われるだけでなく、相続税や贈与税の計算にも利用されています。
例えば、現金2億円を所有する資産家の方が、何もせずに亡くなった場合は、現金2億円に対して相続税が課税されます。
一方で、現金2億円のうち1億円でタワーマンションを購入した方だと、現金1億円+タワーマンション3千万円=1億3千万円に対して相続税が課税されます。
つまり、相続税の計算上は、財産を7千万円圧縮できたことになるわけです。
この仕組みはタワーマンションに限った話ではなく、建物全般に共通する仕組みなのですが、タワーマンションは購入後にあまり値段が下がらず、むしろ上がる傾向もあった事や、換金が比較的容易である事から、富裕層の方々の相続税対策として好まれていたようです。
◆平成29年度税制改正
前置きが長くなりましたが、平成29年度税制改正では、前述の問題点のうち固定資産税についての部分が改正されています。
この改正により同じ床面積でも、階数によって固定資産税が変動することとなります。但し、タワーマンション全体での総和は変わりませんので、低層階で安くなった分を高層階で引き受ける形になります。また、方角は考慮されていません。
具体的には、1階を100%とすると、20階で約105%、40階で約110%、というように階数が増える毎に負担割合が上がっていきます。
例えば、改正前の固定資産税が一部屋あたり年間20万円の50階建タワーマンションとすると、改正後は1階で約18万8千円、20階で約19万7千円、50階で約21万2千円となります。
改正は平成30年度から固定資産税が課税されるタワーマンションが対象
上記の改正は、平成30年度から固定資産税が課税されることとなるタワーマンション(ただし、平成29年4月1日前に売買契約が締結された住戸を含むものを除く)について適用されます。
固定資産税はその年1月1日現在で表示登記されているものが対象のため、平成30年1月1日以後に売買契約・表示登記されたものに加え、次の二つの条件を満たす新築のタワーマンションも新ルールの対象です。
・そのタワーマンションの部屋全てが、平成29年4月1日以降に売買契約されたもの
・平成29年12月末までに建物の表示登記がされたもの
既にタワーマンションを所有している方はもちろん、そのタワーマンションのいずれかの部屋が平成29年3月31日までに売買契約されているものや、中古タワーマンションは新ルールの対象外です。
実際の裁決では・・・
タワーマンションを利用した相続税対策についての税務署の目線がかなり厳しくなっているのが実情です。
国税不服審判所によれば平成23年7月1日に以下のような裁決がされています。
【概要】
・平成19年8月にタワーマンションを2億9300万円で購入
・平成19年9月に被相続人死亡
・平成20年7月にタワーマンションを相続した相続人が2億8500万円で売却
・タワーマンションの購入時と売却時の価値はほぼ同等である
【納税者の主張】
相続人は相続したタワーマンションにつき財産評価基本通達(※)に基づき財産評価をし、土地建物合わせて5800万円を相続財産として申告した。
【国税当局の主張】
財産評価基本通達で評価した5800万円ではなく、タワーマンションの購入価額である2億9300万円で申告すべきであると主張した。
【裁決】
タワーマンションは取得価額である2億9300万円で評価するのが相当であると判断した。
(※)相続税・贈与税の計算にあたり、財産を評価する方法として国が定めた一定の基準のこと
裁決の理由をまとめてみます。
財産評価基本通達はあくまでも財産を評価する際の形式的な基準であり、この通達による評価が妥当ではない場合には他の合理的な方法により評価することになります。
上記事例においては、仮にタワーマンションを購入せず購入資金がそのまま相続財産となった場合には、その購入資金2億9300万円がそのまま相続財産として申告されることとなります。
この購入資金をタワーマンションに充てることで財産評価額を2億3500万円減らすことができましたが、相続開始後短期的にタワーマンションを売却したことを踏まえると、相続税を節税するためにタワーマンションを購入したものと考えられます。
したがって、短期的かつ一時的に財産の所有形態がタワーマンションになったに過ぎないものについて財産評価基本通達により評価することは、この通達による評価が妥当でないと認められたようです。
この場合の他の合理的な方法とは、
・タワーマンションの取得日と相続開始日が近いこと
・購入時と売却時の時価はほぼ同等であること
を踏まえると取得時の時価2億9300万円で評価することが相当であるという国税当局の主張が通った形となりました。
このように相続税対策が税務調査でひっくり返された事例もありますので、相続税対策には注意が必要です。相続税対策をお考えの方は、お気軽に中嶌会計事務所までご相談ください。