2018年も年が明けて、早いもので3か月が経過しました。
今年の冬は非常に寒かったように思いますが、暖かくなるのも早く、佐保川の桜も見ごろを迎えております。
今月の大ちゃんニュースのテーマは「非上場株式の納税猶予制度(新事業承継税制)」について。
従来から相続税・贈与税には事業承継に関する規定が設けられておりましたが、実際に規定を適用するにあたってはハードルが高く、現実的には使いづらいものでした。そこで、平成30年度から納税者にとってより使いやすい規定とするべく税制改正が行われることとなりました。具体的に変わったところを従来の規定の内容を踏まえて解説していきましょう!
◆ 多様な事業承継税制
現在、我が国の税法の規定では各種事業承継規定が設けられています。
1.農地等の納税猶予(贈与税・相続税)…農業の事業承継
2.非上場株式の納税猶予(贈与税・相続税)…法人の事業承継
3.山林の納税猶予(相続税)…林業の事業承継
4.医療法人の持分についての納税猶予(相続税・贈与税)…医療法人の事業承継
もちろん業種の違いはありますが、共通する目的は『事業承継の円滑化』です。
親世代から子世代に事業(株)や財産(農地)を承継するにあたっては、得てして莫大な相続税・贈与税が課税されることとなります。
相続や贈与といった事象により、税金が事業承継を阻害することのないように事業承継税制が創設されることとなったのです。
◆ 従来の事業承継税制(非上場株式の納税猶予)との相違点
非上場株式の納税猶予については、平成25年度の改正により抜本的な見直しがされることとなりましたが、それでもなお適用要件が厳しく使いづらい一面がありました。
そこで、今回の平成30年4月1日より現行の制度に10年間限定の特例措置が拡充され、納税者にとってより使いやすい規定へ抜本的に改正されることとなりました。
では、下記の図を使って具体的にどのように変わったのかを従来の規定と比較して説明していきましょう。
(注1)まず、大きな変更点として、対象株式数と猶予対象となる評価額が大きく拡充されています。現行の制度では相続した株式のうち発行株式数の3分の2に達するまでの株式数が対象となり、さらにその評価額の80%が猶予される税額となっていましたが、この改正により相続した株式の全てが対象となるとともに、その評価額の100%が猶予されることになりました。つまり、実質相続や贈与で取得した株式の評価額に対する税額が全て猶予の対象となるわけです。これはかなり大きな変更点と言えるでしょう。
(注2)次に雇用確保要件ですが、従業員が少ない中小企業にとって5年平均の従業員数が80%を下回らないようにしなければならないというのは厳しいものであり、実はこの要件も現行の規定においてかなりネックになっていたようです。(因みに、要件が満たされないこととなった場合には認定が取り消され、猶予税額の全額の納付が必要となります。)特例制度においては5年平均の従業員数が80%を下回った場合でも、認定経営革新等支援機関(※)の意見が記載されている「下回った理由」を記載した書類が提出された場合には、認定の取消がされないこととなります。つまり、雇用確保要件が実質的に撤廃され、ネックとなっていた要件もクリアできることになったわけです。(※)税理士事務所など
(注3)現行の制度では、代表者であった同族関係者間で筆頭株主である先代経営者からの贈与に限られており、特例制度では先代経営者の要件はそのままに後継者となる人が代表者以外の者から取得する非上場株式についても上記(注7)の期間内に申告書の提出期限が到来するものについては、本特例の対象とされます。言い換えれば、役員になったことの無い株主でかつ親族以外の人から相続・贈与等により取得した非上場株式についても適用が受けられることとなり、相続や贈与で非上場株式を渡す側の要件が緩和されることとなります。因みに、この要件については現行の事業承継税制でも同様に改正されます。
(注4)受贈者(株を取得する者)においても、現行制度では筆頭株主である代表者に限定されますが、特例制度においては一定の計画に記載された代表権を有する後継者で、発行済総議決権数の10%以上を有する上位2名又は3名も対象となり、相続や贈与で非上場株式をもらう側の要件が緩和されることとなります。
(注5)平成29年の改正により、推定相続人又は孫である後継者について相続時精算課税制度の適用が可能となりましたが、特例制度では推定相続人や孫以外の親族や第三者であっても相続時精算課税の適用を受けて非上場株式の贈与税・相続税の納税猶予の規定を受けることができるようになりました。
(注6)特例制度は、平成30年4月1日から平成35年3月31日までに都道府県知事に提出された、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けた適用を受けようとする会社が作成した計画であり、その会社の後継者や承継時までの経営見通し等が記載された特例承継計画の提出を要件として適用を受けることができます。
◆ 事業承継税制適用の大まかな流れ
次に特例事業承継税制の適用について大まかな流れをお話します。
(1)納税猶予を受けるまで
まずは前提条件として平成30年4月1日〜平成35年3月31日までの間に税理士事務所等の認定経営革新等支援機関の指導又は助言を受けた適用対象法人が作成した特例承継計画を都道府県知事に提出することが要件となりますが、特例事業承継税制の適用を受けるにあたっての入り口は大きくわけて下記の2つです。
@先代経営者その他の者から贈与で後継者に非上場株式の贈与が行われること
A先代経営者その他の者から相続又は遺贈で後継者に非上場株式の相続が行われること
ポイントは非上場株式について贈与を行う場合には、特例承継計画を提出してから平成39年12月31日までに次期後継者に贈与を行い、代表権を譲ることです。
上記の贈与、相続等を要件とし後継者へ経営権が移行したこと等の要件が満たされると、都道府県知事より認定が受けられることとなり、晴れて納税猶予が受けられることとなります。
(2)納税猶予を受け、猶予税額につき免除を受けるまで
納税猶予の適用を受けると非上場株式に係る贈与税・相続税の課税は猶予され、贈与者や後継者の死亡、次世代への非上場株式の一括贈与を起因として最終的にその税額は免除されることとなります。
因みに上記図解における@´のパターンは贈与税の納税猶予の適用を受け、その後贈与者が死亡し、相続税の納税猶予に切替わるパターンです。
その場合は贈与税の納税猶予税額については免除となり、贈与でもらった非上場株式を相続等で取得したものとみなし、相続税の課税対象とすることとなります。
相続税の課税対象とされた非上場株式は要件を満たしていれば相続税の納税猶予の適用が受けられることになります。
しかし、免除されるからといって何もしなくていいわけではありません。具体的にはちゃんと事業を継続して経営頑張ってます!というのを税務署長に届け出る必要があります。この届出に関しては特例承継期間内であれば毎年、特例承継期間後は3年ごとに行う必要があります。他にも、特例承継期間内に後継者が代表者でなくなる等経営状況の変更があった場合や猶予の対象となる株式を売却などすると猶予が打ち切られ、猶予税額と利子税の納付が必要となる場合もありますので注意が必要です。
◆ 最後に
平成30年度より改正される事業承継税制いかがだったでしょうか?現在事業承継をお考えの方にとってはこの機会に是非活用をご検討頂きたい話題となりそうです。しかし、適用を受けるにあたり注意点も多く複雑な部分もあるため、まずは是非一度中嶌会計事務所までお気軽にご相談ください!